Chaos Smart

「私は、私が無知であることを知っている」 複雑性、物事の根本に関わる深い叡智をえるブログ

視覚の隙を突いて、空間をねじ曲げる「世界の起源」という作品

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21st Century Museum of Contemporary Art, Kanazawa

L'Origine du monde(世界の起源)

 

■作品解説

薄暗い展示室に入ると、足下から天井まで部屋いっぱいに傾斜したコンクリートの壁面があります。その壁面には、巨大な黒い楕円形の色面が広がっています。その色面は、奥に窪んでいるかのように見えたり、盛りあがって見えたり、あるいは平らなビロードにも見えたり、この色面を識別することは困難で、鑑賞者はいつまでも目の錯覚に悩まされ続けます。この色面は、実際は大きな穴で、内部は青い顔料で塗り込められており、巨大な空間そのものが作品となっています。《L'Origine du monde》というタイトルは、「私は天使を描かない、なぜならそれは見えないからだ。」という言葉で有名な19世紀のフランスの画家、ギュスターブ・クールベの同名の作品を参照しています。

 

この金沢21世紀美術館の展示室に、ぼっこりと開いた巨大な穴(ボイド)の作品「世界の起源」を見たことがあるだろうか。

 

鑑賞者の視覚や認識を揺り動かすことをねらったインスタレーション作品を制作することでは、光を扱う天才アーティスト、オラファー・エリアンソンだが、

そことアプローチが違えど、近い次元にいるインド生まれ、現代彫刻家アニッシュ・カプーア。

 

この『世界の起源』だが、

 

展示空間そのものが作品となり、せり上がった床に巨大なボイドが出現。ボイドは迫ってくるようにも、際限なく深く広がっているようにも見え、既存の空間概念が覆えさせられます。体感的な面白さと共に、ものと自分との関わりや存在を深く考えさせるという哲学的な領域のある作品。

 

ニヒリズムの具象化を試みたものだというものは一目瞭然だが、
「凝視するほどに鏡と化す」この作品は、実は平面でしかない。

この写真ですら信じられないだろうが、本物を見ればもっと平面であることが

信じられないだろう。

 

混乱以上の精神的負担が見るヒトには発生する。

 

視覚の隙を突いて、空間をねじ曲げる天才だと言える。

この作品は、カプーアの日本でいつでも観れる貴重な作品。

 

そして、それ以上に、カプーアは、「世界の起源」などというテーマを選ぶアーティストですから、私たちの想像のレベルを超えた瞑想生活を送っているはず。


日常の感覚経験のレベルを超えた、物理的量を私たちは時として自然の中で感じます。その時ある種のめまいとともに、敬虔な神秘的な感覚に浸ることがあるのは誰しもあることかもしれない。


それは大いなるものに深く抱かれ、すべてを失ってもいいと思えるような感覚に近い。カプーアの作品はそうした神の技と思われてきた自然の造形を、半端じゃないコストと先端科学技術によって実現することで、人の感覚の物理的限界を提示し、感覚が神秘ととらえるものも、そこには何らかの理由があるということを暴こうとしているように思える。


あるいは自分自身の思想的深みを神になぞらえて、人々に敬意と恐れを抱かせるゲームを楽しんでいるのかもしれません。


それはある種の背徳性と造形の偏執的なまでの精度追求の不思議なバランスによって新しい美学を提示しているともいえます。
ともかく、そこに畳み込まれた思想のレイヤーは単純でなく、言語化しきれない多くの要素をはらんでいることは確かです。

この作品も、非常に繊細な粒子を用いて緊張感のある造形を形作る。

chaos smartを表象している作品。